- ◆ ある飲食店にて ◆
私は、東京都杉並区の荻窪で育ちました。
昔は、駅前に大きな商店街が戦後のバラックのままで残っており、
そこへ母と一緒に買い物に行くのが楽しみでした。
今となっては、その昔ながらの商店での買い物風景が、
なぜかとても懐かしいのです。
そうしたこともあり、荻窪、西荻窪、阿佐ヶ谷、吉祥寺などが、
私の本拠地というか一番わが町という気持ちのするところです。
その町には、姿はすこしづつ変わっていっても、
人間的な温かい情緒のようなものが、町に漂っているのです。
最近一番多く出かける町は、阿佐ヶ谷です。
駅近くには欅並木があり、
昔ながらの商店が建ち並ぶアーケードがあって、なかなか楽しい町です。
その阿佐ヶ谷で何軒かお気に入りの店があるのですが、
時々行く○○食堂に先日久し振りに行ってみると、
もう経営者の代がかわっていました。
店作りは同じです。でも、なんか違うのです。
以前私がはじめて行ったとき、私は股関節の病気を患い始めた頃で、
その歩きぶりに女経営者の方がとても気遣っているのが分かりました。
あまり居心地の良い席が無かったのですが、
気遣って下さっているのが分かるだけで、
十分気持ちが伝わりました。
お料理も、普通の定食ではあるものの、
どことなく家庭の温かさを感じるような気持ちがしました。
ところが、最近行ってみると、そのお嫁さんが仕切っているのですが、
店造りは一緒でも、全く違う店にみえました。
お料理もどことなく味気ないのです。漬物の盛り方とかその量とか。
もちろん経営上、きびしく何かを削らなければやっていけないと、
削れるところは全て削っているのでしょう。その気持ちはわかります。
でも、漂っている空気に「こころ」がありませんでした。
私はレジ近くの椅子に座っていたのですが、
そのお嫁さんは従業員がそばに行くたびに、
「(お客様が会計で)すぐ1万円出すのよね」と
従業員に愚痴っているのです。
しばらくして他のお客様が会計するときも、
「細かいのはありませんか?」と聞いていました。
聞いていけないわけではありません。
両替が乏しいときは、細かいお金で払ってもらえると助かる。
それは良くわかります。
でも、ちょっと行けば銀行はあります。あまり遠くないのです。
料理も野菜料理が何もない。
ちょっとだけある漬物が、本当に本当にちょっとなのです。
それもすごくぞんざいなつけかたで、
お味噌汁もすごく薄くて中身が少ない。
以前はそんなことはなかったのです。
お魚だけはとても美味しいのですが、それだけでは駄目。不合格です。
お客様がまだ大勢いるのに、目の前で倉庫を開けて、
「ガラス拭きが無いから、買って来ていい?」と聞いています。
まだ食事中なので、倉庫をあけるのは後にして欲しいなと思いました。
定食屋とはいえ、昔はとても良かったので残念でした。
良く来ているお客さんには、話しかけてはいるのですが、
どことなく心が感じられない会話。
接客があまり好きじゃないのではと感じました。
まず第一に笑顔が無い。
温かさが無い。
その「無い」が店のすべてに漂う感じ...。
阿佐ヶ谷の町に、マッチしないなと思いました。
逆に紋屋は...。
建物は古いし、お金もかけられないので、食器だって十分じゃないし、
清掃だって不充分な部分はある。
でも、料理は十分に練られた献立だし接客は温かい。
料金だって、比較的リーズナブル。
最近、再度いらしたあるお客様のお父様が、
「ここのお宿は、良いお宿だ。お客さんに対してとっても温かい。」と
私の前で一生懸命力説してくださいました。
有りがたいことですよね。
その日は、
「お越しの皆様がそういうお客様でした。
なのに、どうして暇なのかしら?
宣伝が下手なんだな」と苦笑しました。
持っている気持ちはきっとどこかで通じる。
そんなことを思った、今回の阿佐ヶ谷行きでした。
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◆素顔の女将◆
年末年始、多忙とストレスで「もう私、書けないかも」と言っていた家内だが、
ふと題材を思いつくと次々に文章が出来てきたみたい。
書くことが好きなんだね(^-^)
(by aruji)