◆ いつまでも持ち続けたい気持ち ◆

小さい時から、私は大きくなったら必ず接客の仕事をすると決めていました。

その気持ちは今も変わりません。



     しかしながら、旅館業という職業は、

     接客の仕事の中でももっとも難しい世界だと感じます。



時間が余りにも長く、ご滞在の間に一つでも間違いがあれば、

(料理に髪の毛が入っていた。会計ミスがあったなどなど)

それまでの良い気分がすっ飛んでしまうのです。



それでも逆に難しいからこそ、その一場面一場面で、

考えさせられることが非常に多い仕事場だとも言えます。


長くこの場にいて、苦しいことばかりが続くと、

もう旅館業は嫌だと思うこともしばしばですが、

今回は、そう思いがちな私に、久し振りにやさしい風が吹きました。



私は、不特定多数の知らない方々と、はじめてお目にかかり、
笑顔でお迎えできることが幸せだといつも思います。

普通の事務職だと、たいがいは社内の方としか関わらずに過ごします。
もしくは、会社に営業に来る方など、決まった方に限られます。


     それが接客業だと、全然知らない方とも普通にお話が出来る。

     突然心が通じることもある。

     だから接客の仕事は楽しい。


こちらの笑顔にほっとして下さる方もあれば、
非常に冷たい視線を投げかける方もあります。

素敵な笑顔の方は印象に残りますが、
何か気に入らないのだろうなと伺える方も気かかりです。




今現在は、全てのお部屋やお食事処に私は足を運んではいませんが、
チェックインは、ほぼ90パーセント私が行います。

チェックイン時の印象と、お食事中の印象は違うこともあれば、
同じこともあります。

その日にお越しになるお客様の状況を
全体的におおよそつかんでおくことは、大事なことです。


日によって、今日は今ひとつ気持ちの通じそうなお客様が
いらっしゃらないなと感じる1日もあります。

前日に確認電話を差し上げてはいますが、お客様がよく聞いてなくて、
お越しになってから、予約内容が違うといわれることもあります。




最近混み合う日は、
朝食会場を2回転(7時半からと、8時45分から)に
分けさせていただいています。

年々、係も年を取り、人数も減ってきました。

一階と二階に分けると効率も悪く、人件費も多くかかります。

そこで、以前は一階と二階に朝食会場を設け、
全部で三箇所の朝食会場でしたが、二階を使わないことにしました。



今まで時間のトラブルはありませんでしたが、
今回はじめて、8時45分からでは遅いというお声が出ました。

子供がお腹をすかせてしまうとのこと。

でも、7時30分からはもう席がいっぱいでした。

それだけの為に、ご到着時から変な空気が漂い、
楽しくない旅にしてしまうのは残念なことでした。

どこのホテルでも、朝食付きで泊まっても、
レストランがいっぱいだと待たされます。

だからそういうことがあっても、ある程度仕方が無い。


でもよくよく見たら、
そのお客様のお子様は、離乳食とランチプレートでしたので、
お部屋にお子様の分だけ、お持ちすることにしました。

お夕食のとき、まだ、朝食の件が後を引いているかなと心配しました。


でも、伺ってみるとそんなことはありませんでした。

皆様おやさしく、お子様の一ヶ月前倒しの誕生日祝で、
かわいらしいお子様たちの姿で、
みんなの心が和らいでいるように感じました。

一番上のお子さんが、私が退室しようとすると、
勢い良く胸の中に飛び込んできました。

うちの孫より二つくらい大きいお子さんは、ずっしりと重かったです。

そうしたことも、ご家族の空気を優しくしたようでした。


     一生懸命おもてなしをすれば、

     通じる方には通じるんだ!


怒られつづけていると、気持ちも萎縮してしまい、
笑顔が半分になっていることも。

いけない、いけない。


最近年を取ってきたせいか、
苦しいことから脱却してもなかなか本来の元気が戻ってきません。

嫌なことを克服した後、
バネがはねるように接客に熱い気持ちを持ちつづける。

今日も、新しい紋屋の、私と心通じるお客様をつくれるように頑張ろうと、
なかなか思えなくなってくる。


     もう、今までのおなじみさまだけで、

     私の時代は終わりなのかもしれない...。



ところが次の日、再々度のお客様からは、

「前回は、おかみに会えず残念だったので、今回はお目にかかりたい」と
メッセージが着いていました。

みると、一回目は私がまだ月の座で配膳をしていた頃、
お越しになったお客様でした。


     「覚えていてくださったんだな」と嬉しく思いました。


お料理がお好きで、調理長の野菜の切り方などに感激し、
持ちかえって自宅で研究するとおっしゃって、
ちり紙に野菜を包んでお持ちかえりになったお客さまでした。



また、今回で4回目になった、あるお客様。

いつもタイミングが合わず、お話できなかったのですが、
今回たまたまゆっくりお話が出来ました。

なんとも、お話の調子があうのです。

おそらくこの方の暮らしぶりは、
非常に豊かでいらっしゃる方なのだろうと思えます。

高級旅館だっていくらでもあるのに、
紋屋のように古くてエレベーターもない宿にお越し下さる。


    「ここは、料理をよく研究しているし、サービスも良い。

     眺望が素晴らしいし、窓がいつも綺麗だ。」


きちんと評価してくださっているんだなと、嬉しくなりました。


そのお客様のお隣のブースで、古希の祝いをして差し上げたのですが、
それが聞こえて羨ましくなったそうです。

そのお客様はいま還暦で、もうすぐ61歳になってしまうのだとか。

そうだったのかと、
早速還暦のお祝いの用意をして再度その方のところへ出向きました。

恥ずかしがっていらっしゃいましたが、お喜び頂けました。



昨日はまた、お話が合うお客さまに多く恵まれた嬉しい一日でした。

足が悪くなって、月の座に入れなくなった時から、
お客様との触れ合いが少なくなり、どこかで卑屈になっていたのです。

挨拶と言う形ではなく、配膳などを通して、
自然にお客様と触れ合えるのが、本来は理想なのです。


   社長にその話をしたところ、

     「年齢に関係ないよ」といわれました。



どんなに恨みのこもったご感想を頂いても、へこみ過ぎないように、

いつまでも大好きな接客の仕事に対する大事な気持ちを

忘れないようにしなくてはと、改めて思いました。



どうかこれからも、良い出逢いに恵まれますように。




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◆素顔の女将◆

   孫が出来たせいか、もう歳だから傷ついた心のリカバリーに
   時間がかかるとか、新しいお客様は私には作れないのかもとか、
   気弱なことを言う家内。

   いやいや、心の通うお客様と接している時のあなたは、
   とても嬉しそう。生き生きしているよ!

   いくつになっても、あなたのお客様は生まれると思うな。

                            (by aruji)

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