◆ 家族時間 ◆


私は、前職(百貨店勤め)のときから、
心の通じる大事な顧客様との心の触れ合いを大切にしてきました。


   売上を上げると言う単純な行為に終始するのではなく、

   もっと深い心の結びつきを重視し、

   決して「売ろう」とするのではなく、

   お客様の立場や気持ちになって接客するのです。


お客様のほうでも、商品の話にとどまらず、
家のことやら仕事のことやら、私と世間話をしにお越しになります。

そういうことが私にはとても嬉しいことでしたし、大事にしてきました。


   旅館は百貨店とは大きく違い、

   お客さまの方で宿を選んでいらっしゃるので、

   お越しのお客様が気持ち良くお過ごし頂けるように、

   少し遠くからお見守りします。


そのために、親しくなるのに多少の時間はかかりますし、
何度いらしても、心が通じないお客様もいらっしゃいます。

もちろん、人間ですから相性というものもあります。

それでも、多くのお客様と段々にいろんなお話が
出来るようになっていくことが多いです。

そして、おなじみ様と呼べるほど何度もお越しいただくその中には、
百貨店時代と同じように、
強い心の結びつきを育めるお客様もいらっしゃいます。



先日、ここ2年くらいお越しになっていなかったあるおなじみ様が、
久し振りにご来館になりました。

いままでどんなに足繁く通ってくださっていても、
来る、来ないはお客さまのお考え。

文句を言える立場でもないし、
プッツンといらっしゃらなくなっても、
それは仕方が無いことです。


   お客様側の事情が変わる、もしくは気分が変わる。

   こちらに対して気にいらないことが発生してこなくなる。


色々ではありますが、良い出逢いがあれば別れがある、
それは道理でもあります。



今回お越しになったお客様は、
毎年、年賀状もお出ししている親しいお客様でしたが、
最後にお越しになったとき、私は不在でした。

私は、平日は多くの通院や習い事、
セミナーなどで忙しくしていることが多いのです。

でも、私がいないことで、
結構なおなじみ様がその後全くいらっしゃらなくなったり、
来館頻度が落ちたりという事象がある事は事実です。

忙しい土日や祝日にいないことは滅多にありませんが、
多くのおなじみ様や、またはじめてのお客様でも、
私に会いたい方はいらっしゃる。

それに最初の頃は合わせていましたが、
それでは私の生活が全く成り立たないので、
割り切る事にしたのです。


でも、おなじみ様にとってはそのあたりが大きな落胆になるようです。

しかも今回のおなじみ様の場合、
その最後のときに、会計ミスがありました。

その上、会計ミスはその前のときにも発生していたのです。


そんな出来事も、紋屋との歴史に新しいページができたと
おっしゃっていただいたのですが、
きっと気持ちの悪さは残っただろうと感じていました。


そして、その後2年間お越しにならなかったのです。



今回お越しになってすぐに、

   「ごめんなさいね、ずっと来なくて」と謝られました。

   奥さまは私の手を握り締めてくださいました。

私も、嬉しさが胸をこみ上げました。


ご夕食のとき、ご挨拶がてら個室ブースにうかがうと、

この2年間に起きた出来事、去年の震災の話。

本当に次ぎから次ぎへと話は続いていきました。


   来なかった理由の一番は、
   たまたま趣味のガーデニングの展示会に出掛けたところ、
   全国にホテルを持つ会社のオーナー制度の誘いがあり、
   それのオーナーになったことだそうです。


出掛けないと、ポイントが無くなる?とかで、
北海道やら沖縄やら、京都だと忙しくお出かけになり、
こちらにくる暇がなかったとのこと。

ホテルはキッチンがついており、自炊するのだそうです。

ホテル内にはレストランもあるそうですが、もちろん別料金だとか。

「そういう制度を利用しているという友人もいたなぁ」と思い出しながら、
お話を伺っていました。



2年の間にご主人様はヘルニアになられ、
スポーツが大好きな方なので、
家の中の空気が暗くなった話も聞きました。

以前にも、家の屋根から落ちて、大怪我をなさったのです。

それから奇跡的な回復をなさったのですが、
さすがに今回は、歩き方がすこしおぼつかない感じがありました。

お互いに痛いところがあって、整形外科にお世話になる身。
そのあたりでも話は尽きません。

奥さまが気遣ってくださって、椅子を私用に用意してくださり、
まるで家族のように団欒の時間を持つことが出来たのです。



ご主人様は正直に、
2回の会計ミスのせいもあることを認めていらっしゃいました。


   でも、何があろうとこうして再会し、

   話ながらお互いに涙して喜び合えたことは、

   2年間の空白を埋めるに足る、心の通い合いの証でした。


もちろん、今回はミスがあってはいけないと、
当日の手配表(ゲストインフィメーション)に
「2回過去ミスがあった。厳重注意!」と書いておいたものの、
フロントはイマイチ緊張感がなさそうでしたので、
自分で領収書を確認しました。


   「1年に5回も来ることがあったのに、急に来なくなる。

    それは良くない」と、ご主人様。



嫁にきて15年。


最初は親ほどに違う年齢の従業員たちの中で、
すこしづつ宿を改善してきた私。

そういうなかで、築き上げてきたおなじみ様は、
私にとって特別なものなのだと、改めて実感しました。


   私は、やっぱり心と心をつなげるお客様をつくり、

   その方々にとっても忘れることが出来ない「私」になることが、

   私の仕事上の幸せであり、

   お客様にとっても「私」の存在が

   何かしら幸せのエッセンスであったら、

   この上ない喜びです。



そのおなじみ様とのご夕食のひとときは、私にとって、

それはそれは温かな気持ちになれた「家族時間」でした。




-----------------------------------------------------------------

◆素顔の女将◆


「この懐中電灯壊れてる!電池、入れ替えたのに点かない」と家内が訴える。

蓋を開けると、中には単4の電池が入っていた。


     「単3じゃないの?」と聞くと、

     「単3だと蓋が閉まらないのよ」と言う。


試しに単3の電池を入れて蓋を閉めてみると、フツ~ウに閉まる。

電池の入れ方が違っているのはよくある事だが、
電池自体の選択を間違えるってのは、フツ~ウじゃない(笑)

                            (by aruji)

ご予約・プラン紹介はこちら